エビス道 2011年3月14日 at 12:57 AM

海にはエビス道と呼ばれる不思議な海流があって、エビス道が通る付近の海で亡くなった方はその海流に引き寄せられて運ばれるという話がる。

ある地域の海水浴場では水の事故があると決まって水死体が流れ着く防波堤があって、ライフセーバの早朝巡回コースとなっている。

その付近の海はエビス道が通っているようで、海水浴場で亡くなるとその海流に乗って防波堤の波消しブロックまで運ばれてくるということだ。

エビス道を通る水死体はまるで生きているかのように海中を上下に浮き沈みしながら前進し、もしもダイビング中に出逢ってしまったら陸に揚げてくれと言わんばかりにゆっくりとついて来るそうだ。

このエビス道、岸へと向かう海流ならば誰かに発見されることになるが、もしも沖へと向かう海流に乗ってしまうと発見される見込みは非常に薄くなる。

深く広大な海では人の目が及ぶ範囲は限られているため、沖に流された水死体が発見される唯一と言っていい機会は漁船の網に掛かることである。

時折、漁の最中に魚網に遺骨や死体が掛かることがあるだが、水死体の引き揚げは船にとっては悪いことではなく船頭の人徳を表すとされる。

陸に揚がりたい水死者は船頭の人徳を頼って網に掛かって来たという解釈がなされるからだ。

エビス道で漁をして水死体を引き揚げたある漁船では、知り合いの船の乗組員を引き揚げたそうだ。

船底一枚地獄という言葉の通り、漁は常に死と隣り合わせである。引き揚げられたのは夜の漁で誤って海に転落し、数カ月間行方不明になっていた男だった。

身元が割れたのは仏さん(水死体)が所持していた免許証からで、転落時に着込んでいた作業用合羽のポケットに財布などが入っていたのだった。

仏さんはむき出しの顔や頭は生き物に食われて骸骨になっていたのだが、合羽に包まれた体の部分はしっかり肉が残ったままの姿であった。

引き揚げ時の漁法は底引きではなかったことから、仏さんは海底に沈んでいたという訳ではないらしい。合羽と肉の浮力の助けで、海中を浮き沈みしながら漂っていたと見られている。

引き揚げられた仏さんだが運が良かったのは合羽を着ていたことで、着衣が脱げて白骨化するとエビス道には乗れず、海底で永く留まる事となる。


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