骨の溜まる海

某海岸付近の海中での話。 そこは正規の海水浴場ではないが割と水深が浅い。そして近くの崖際には光の加減で海が青から深い緑に見える小さな洞窟もありそこで海遊びをする人は多い。 周りは緑に囲まれてレジャーにもって来いの場所ではあるが、気味の悪いことに崖際の海中に犬や猫とおぼしき獣骨が多く沈んでいる。獣骨は神秘的な海の色と相まって海底を不気味な異世界に変貌させている。 この骨の由来について、近隣で誰か虐待して殺し捨てているとか、飲食店の秘密食材として使用された残骸だとか噂されていたが真相は違っていた。 ・・・・・ある日、その海岸に遊びに来ていた若者グループが波間を漂う段ボール箱を発見する。きれいに口が閉じられており、箱の中にはなにが?という好奇心に駆られて陸まで持ち帰り中身を確認することにした。 そこに入っていたのは子猫遺体で、猫の周りには花と生前使用していたであろう猫用の玩具が添えられていた。そして、遺体の脇に1枚の紙を発見する。罪悪感に駆られながらも読んでみると、飼い主家族から子猫に宛てた感謝と別れの意が述べられていた。 どうやら箱は川から流れついたものらしく、洞窟のある崖付近には夏になると灯篭流しの御供えもののオレンジ等が吹き溜まっており、地形の問題で川からの漂流物が流れ着く。海中に沈む犬猫の骨も供養目的で人の生活圏から流されたもので、一部はペット霊園からの漂着物とも云われる。火葬したり土葬したりしないのは、遺体を海に流すことが成仏に繋がるという謂れがこの地域には伝わっているからである。 遠く大海原を旅するはずであったペットの遺骸は、場合によっては海岸近辺で沈むことがあるらしい。 霊感のある方の話では自らの意志で人が訪れる海中に沈んでいるとも云う。人が恋しいとのことだ。

航空神社

大戦時の戦死者は色々と問題とされている某神社に合祀されるが、訓練中の事故等で死亡した殉職者は戦死者ではないのでそこに祭ことはできない。 特に訓練中の事故の多い飛行機乗りの殉職者の数は無視できない。そこで空での殉職者は空の安全を守る航空神社に祭られることとなったという。 この航空神社は戦後はその意味合いを無くし廃止の一途を辿ったのだが、その痕跡は未だ見ることが出来る。 各地にあった航空神社、現在は無理矢理に改修されて違う神社となっているケースが多い。立派な建物はそのままに、看板だけを代えて営業を行うということは商業の世界では普通にあることだが、それがスピリチュアルな世界でも行われている。 しかし外面は変わっても大よその作りは変わっていないので、鳥居の裏に回って見れば一目瞭然に昔の航空神社の痕跡が見えるとか。 参拝する際は裏側を見ろというのが専門家の皮肉交じりの忠告だとか。 そういった神社関係の研究者は軍艦に安置されていたはずの神社が戦後どこに行ってしまったのか?とその所在も探っているらしく、その動向も気に掛かる。

自販機の合鍵

関東某県と都内郊外の自動販売機では合鍵を使っていると思われる窃盗被害が発生している。 商品の補充と代金の回収を行う飲料会社社員が調べると、そんなに大きな額ではないが売り上げ代金が不足していることが多々ある。 最近の自販機は鍵で開けた時間が記録されるのだが、履歴を見ると深夜や早朝などの不自然な時間に開錠した記録が残されている。 某社の自販機では一つの鍵で複数の機械をカバーすることができるのだが、窃盗被害は開錠可能な複数の自販機を巡回するように起こっている。しかも、人目につきづらい郊外や山中の自販機が標的になっている。 対策として鍵の型を替えるのだが、しばらくするとまた窃盗被害が発生する・・・の繰り返しとなっている。 手口からすると内部の事情に精通した人間が行っていると思われる。そして、合鍵の持ち出しや複製などは容易には出来るものではないことから、複数の人間が犯行に関わっていることも考えられ、あまり信じたくはないが内部の人間が関わっている可能性も否定はできない。 実際に退職時に合鍵を持ち出して窃盗を行っていた犯罪が検挙されたことがあるが、事件として浮上するのは氷山の一角とも言われ、そういった不正の多くは表に出ることなく行われている。 しかも、大騒ぎをする程の大きな額は盗まれず、僅かな額が継続的に盗まれているのである種性質が悪い。 組織的な犯行とも囁かれているか、これはあくまでウワサである。

ファイマスナックムエ

ムエタイが国技のタイで名を上げたムエタイ選手(ナックムエ)は引退後、給料の良い日本に出稼ぎ来ることが多い。 格闘技ジムがインストラクターとして招くパターンが多いが、自らがジム経営をする者も居り、日本での生活スタイルは様々。 名高い選手は人格的に優れた者が多いが、引退したとは言え元々は格闘技者であり、貧乏な田舎から這い上がって来たハングリー精神の持ち主である。 一昔前のタイの貧しい農村では金のために、男の子が生まれたらムエタイ選手に、女の子だったら売春婦、という空気があった。 親の期待を背負い、男の子は都会のジムに入門するのだが、そこでまっているのは厳しい練習と競争であり、使えないと思われた子供は、頭を思い切り殴られ 「田舎に帰れ」とジムを出される。 経済発展により今でこそ、こんなことも少なくなったが、一昔前までは貧しい農村はほんとに貧しかった。 そんな中で、厳しい競争に勝ち抜いたランカークラスの選手達はエリートといえる。 そして、引退後も一稼ぎしようと来日するのだが、多大なハングリー精神を持ち、そして元々が過激なお国柄のこと、暴力的なトラブルは少なくない。 とあるチャンピンは同じくインストラクターのタイ人選手と口論になった際、頭に来てオロ○ミンCの空瓶で思いっきり頭を殴ってしまった。 この事件は、ジム側の配慮で表ざたにはならなかったが、当のチャンピオンは解雇され、タイに帰国してしまった。 こういう暴力事件は頻繁に起こるものではないが、カッとなると普段は隠している激しい気性が目を覚ますらしく、過激な逸話は多くある。 また、格闘技の世界で活躍するものもいれば、闇の世界で活躍する者も居る。とある長身ムエタイランカーがその口で、現役時代は強すぎて賭けにならず、試合が組めなくなったほどの選手である。 その選手は引退・来日後、横浜のとある組織の用心棒となった。 長い手で相手の頭をしっかり掴み、長い足から問答無用で繰り出される頭部への休むことないヒザ蹴りはまさに必殺である。

黒真珠

とある婦人が指輪を購入する目的で某有名宝飾店を訪れた。 女性店員に「よく似合います」と指にはめられたのが天然物だという黒蝶真珠の指輪であった。通常の真珠よりもかなり値が張る品物である。 婦人は真珠が持つ複雑な色合いに魅せられた。 指には高級指輪が光り、店の対応はセレブのような扱い・・・まったくは悪い気などしない。 「どうしようかしら・・・」婦人は購入を考えはじめた。 そこからは店員の猛攻が始まり、指輪の購入を押しに押された。正気に戻ると、さすがにこのような高級品を買う気にはなれず、婦人は「お金がない」という断った。 その言葉に対し、 「問題ありません」と半ば強引にカードローンを組まされて、勢いに押されて結局購入してしまったのだ。 元々こんなに高い指輪を買う気はまったくなく、懐にも余裕はない。 帰宅後、夫に天然物の黒蝶真珠指輪を購入したことを話すと、激怒して「返品しろ!!」と婦人は怒鳴られてしまった。 翌日、返品するため購入店に行くが 「返品は受け付けられません」の一点張りであった。 「ではお金は払いません」と強く出た婦人であるが、数日して”その筋の人”と思しき人物から電話があり、「金は必ず払え」と婦人の自宅から夫の職場にまで恫喝に等しい電話が掛って来た。 こうなっては「夫の信用を失ってしまう」ということで泣き寝入ってしまい、結局カードローンでの購入を決めてしまった。。。 では、実際にこの黒真珠はどれほどの価値があるのか?有名店ということで当初は指輪の価値を疑わなかったが、店の酷い対応で品物の価値に対する疑いが生じていた。 これを確かめるために知人の紹介で、信用できるという貴金属店を訪れた。 事の事情は話さずに、指輪を店主に見せるなり 「着色ですね」という信じられない言葉を聞かされた。 真偽を問うために黒真珠を購入した有名企業に電話をすると、当初は天然物だと強く主張した。 証拠はあるのか?と怒鳴りつけて来たので、これはプロの鑑定結果だと言うと、 「どこで鑑定したのか?」をしつこく聞かれた。 店主からは店の名前を出して良いという了承は得ていたため、その貴金属店の名を出すとあっさり 「着色です」と宝飾企業は白状した。 そこからは貴金属店の店主が対応し、返品ができないならば、ある程度の誠意は見せろという意味でせめて鑑定書くらいは本物を付けろと要求したところ、 「分かりました」と企業は要求を飲んだ。 そして婦人の元に鑑定書が送られてきたのだが、その出来は酷いもので、業者が一目で偽物と分かる子供だましとも言えるほどの体の悪い物であった。 数百円の価値しかない物をデザイン料とブランド力だけ百倍近い値で売りつけるのが、まかり通る世界だと店主は言う。購入する側も本当の価値が分からないといけない、そう婦人が言われた。