魚網の髑髏 2010年8月15日 at 6:58 AM

海での漁では魚網に白骨化した頭蓋骨が掛かることが稀にある。

船としては不浄物の引き上げということで縁起は良くないが、船頭にとっては誉れなこと言える。海難者の霊(髑髏)は船頭の人徳を頼って網に掛かって来ると云われているからだ。

長らく水中に沈んでいた海難者の髑髏。広大な海の規模から見たら猫の額にも満たない小さな網にそれが掛かることなど奇跡に等しい確率である。そこには強い念の存在がある。

海の底は冷たく暗く、魂が安らげる場所では無いらしい。水死者の霊は海から出たいと強く思っているので、陸に上がる機会を心待ちにしている。

長らく海に縛りつけられていた海難者の魂は簡単には海から離れられないらしく、救いに応えてくれる人間が居てこそ救われるようだ。

水死体は船やダイバーが近くに来るとまるで意志があるかのように近づいて来るという話がある。

ダイビング中の事故によりウエットスーツを着込んだまま亡くなった水死体は、ウエイトとスーツの重みにより水面に浮かぶことも海底に沈むことも無くまるで生きているかのように海中を上下する動きを取る。

気骨ある人間ならば陸に上げることも出来ようが、大抵は恐ろしくなり大急ぎで逃げ出してしまう。それが祟ってか、水死体は生者の思いとは裏腹に追い掛けるかの如く近づいて来るという。

これは、推し進む物の周りに生じる水流によって引き寄せられているという説明がなされているが、果たしてそれだけなのだろうかという疑問は生じる。

こういった話からは、海難者が求める“救い”というものを感じざるを得ない。


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