海難法師 2010年8月15日 at 10:52 AM

伊豆諸島では1月24日(神津島等は25日)を海難法師が島々を廻る日として畏れられており、その日は早く床に就いて外出を慎んで静かに過ごす。
これは海難法師という亡霊に遭わないためで、もしも海難法師に遭ってその姿を見てしまったら凶事が降りかかると云われる。
海難法師は生前、民衆を苦しめる悪代官の御一行だったとも云われる。

代官が行う厳しい年貢の取り立てに困り果てた島人達は、この調子で島廻りをされては他島の人にも迷惑が掛かるということで計画的に海が荒れる日に出港を勧めて遭難死させた・・・
また、別の伝えでは、代官の無慈悲に憤った25人の若者が暴風雨の日に悪代官を乗せて船を出し、沖合で船の栓を抜き海に沈めたいう話もある。
義のためとは言え、役人殺しという大罪を犯した若者達を島に上げては皆が罪を被ることになるので島人達は上陸を拒否。

その結果、若者達を乗せた船は時化の海に飲み込まれてしまった。
若者25人の霊は日忌様と呼ばれ、伊豆大島には祠が祀られている・・・・・
このように海難法師とは恨みを持った海難者の霊であり、それに遭うもしくは見ると気が狂ってしまったり、死んでしまうそうだ。

伊豆諸島では、1月24日は元々が物忌み(穢れを避け、身を清浄に保つ行為)の日だったらしく、亡霊や悪鬼、もしくは神々の類が海の向こうから来訪する日であったと考えられる。

御蔵島では海難法師ではなく〝忌の日の明神”という異形の神様が来訪するという云われであることからも、1月24日がどんな日であったかがうかがえる。
いずれにしろ、1月24日は異界からの来訪者が島々を訪れる日ということで、幸ではなく禍(わざわい)の方を運んで来るようだ。

来訪者の厄災を避けるために、島々の戸口にはトベラという植物を挿す。トベラは枝を折ると悪臭を放つため、魔除けの効果があると信じられている(同様に臭いの強いノビル、棘のあるヒイラギを挿すことも)。

現代においても1月24日の禁忌はしっかり守られており、
・玄関に魔除けの植物を挿す
・日が落ちてからは外に出歩かず、決して海を見ない
・静かにして早く寝る

恐るべき物忌む日となっている。

来訪者の姿は錫杖を持った坊主、海を走るたらいの船、もしくは25人の亡霊の集団とも云われる。
来訪者に縁のある旅館や旧家では、その日霊を迎え入れ鎮める謎めいた儀式を行うという話である。


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