湖底暮らし 2010年8月19日 at 7:12 AM

他人に気を遣って生きるのに疲れていた。何となく会社を辞めて2カ月。ふと思い立ったのは田舎での暮らしだ。

人が居ない所、それだけを条件に不動産屋を数件当たると面白い物件が見つかった。場所はとある観光地の湖ちかく。潰れた民宿、といっても大きな家というレベル。

見に行ったが、長らく放置状態にあり、住むにはそれないりの手入れが必要だった。安いだけのことはある。

田舎暮らしと言っても近所づきあいが煩わしい。一切、干渉されたくなかった。そういう意味でそこは適地だった。

東京に近いこと、それが大きな後押しとなった。何時でも都会に戻れる、そんな安心感が冒険する勇気をくれた。

掃除だけは業者にお願いして、引っ越しは自分で。家族は犬だけ、元々も物を持っていないので自前の引っ越しに不安は無かった。

住んでみて分かったのは、ここでの暮らしは湖底での暮らしだということ。朝は霧がかかり、日中は木々が日差しを遮る。遠く、暴走車の音がするが、人の実在感が感じられない。対流のない水の底、そんな暮らしだ。

しばらくして犬が自分の尻尾を追い回すようになった。ケージに入れないと、2時間も3時間も追い回す。なにがストレスだというのか。井戸の水はごくごく飲むのに、餌は殆ど食べなくなり、数週間後にはガリガリになっていた。

ある日、街での買い出しから帰ると尻尾を食い千切って犬が絶命していた。ますます静かになる。。。。

やたらに水が旨く感じて、飯なんて食っていられない。気がつくと紅茶にクッキー1枚だけで一日過ごすこともざらにある。水物だけはガブガブ飲むくせに。。。。

散歩中に見知らぬ婆さんから声を掛けられた。最近引っ越して来てどこどこに住んでいると今までのことを話すと、血相を変えて所有権を放棄しろとか出来ないなら井戸を潰せとか、訳の分からんことを言って来た。

話をまとめると、水脈の元になっているところが祟る山で、そこら一体に人が踏み入ると決まって障りが起きるそうだ。瘴気を吸った水を飲むのはもっての他で、何人もやられている。

早くそこから出ないとお前も馬鹿になるみたいなことをくどくど言うので頭に来たが、確かに井戸水を飲み過ぎてはいた。祟りがどうとかよく分からないが、重金属とかは確かに心配だ。

水道水は飲めない性質なのでミネラルウォータに切り替えてからは、なぜか飯が旨い。

体重も戻りつつある今日この頃、思い返すと引っ越してからというもの常に頭にモヤが掛かった感じがする。深い思考が出来ない感じがする。

でも体調さえ戻ればどうってことは無い。むしろ湖底暮らしには丁度良いのである。

あ~あ~、犬にもミネラルウォータやればよかったなあ。


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