梅の核 2010年9月9日 at 8:46 AM

「梅は食うても核(さね)食うな。中に天神寝てござる」

生梅の種には青酸化合物が含まれているので食べるなという戒めとされる。

塩漬け梅ではほぼ無毒化されるので種の中身(仁)を食べても問題ないと言うことであるが、ときに梅の種は神聖視されて粗末に扱うことを禁忌とする意識が日本人にはある。

海で漁をする際、梅干しの種を海に捨てることは不吉とされ、海が荒れたり不漁となると信じられている。

種の中に天神様が宿っているので、それ自体を捨てる不敬により罰が当たる。または、女神とされる海神と男神である天神様との交わりにより高い波が産まれると云った話が伝えられている。

このジンクスは、海での遭難時には水に飢えることとなるので、梅干しの種を捨てずに持っておけばいざという時に渇きをしのげるという実用的な意味合いが大きい。

とにかく梅の種を粗末にすること自体が良くないことであるらしく、ガリっと噛んで仁を食べることは最大級の禁忌であり、ときに神罰さえ与えられかねない、そう信じられている地域も存在する。

言い伝えを端から馬鹿にして掛る威勢の良い男が、酒の席でとんでもないことをしてしまう。

「梅の種だぞ?何が怖いことがあるんだ!!」そう言って神棚に祀ってある梅の種を口に含むと“ガリっ”と噛み砕いて畳の上に吐き捨てたのだ。
この行いが祟ってか、男は翌日から原因不明に病に罹り病床に伏すことになった。

医者にかかると医学的見地からはどこにも異常は無いということであるが、どうにも調子が悪い。
障りがあったことは明らかであったため、集落の巫女(ふじょ)に見てもらうことにした。

すると、梅の種に宿る神霊が巫女の口から酒の席での不敬に対して怒っているという旨が伝えられた。

男は儀式の中で心の底から自分の不敬を詫びたところ、一晩寝て目が覚めると嘘のように元気を取り戻した。


Leave a Reply