染み出した水

生活保護需給者の中には高齢の一人暮らしの方も多く、人知れずお亡くなりになり保護課の公務員に発見されるケースが少なくない。 人間シチューとはまでは行かないが、冬季には外気と湯の温度差で心臓麻痺を起して、湯船の中で腐乱状態で発見される事例は実際にある。 最も多いのは布団の中で見つかるケースで、病気を患っているが医療費が捻出できず、自宅で病死するということらしい。 生活保護の現場は死と近い位置にあり、自然とそれに纏わる怪談が発生してくる。その一つに水に纏わる話がある。 とある高齢受給者のお宅を訪問したが応答が無い。 もしやと思った公務員は管理人さんを呼んでドアを開けると独特の悪臭が立ち込めていたので亡くなっていることがすぐに分かった。部屋に入ると布団に入った状態で亡くなった受給者を発見した。 こういった場合、特殊清掃業者に依頼して原状回復を図るのだがその業者から 「床を剥がす必要があるで許可が欲しい」という連絡があった。 業者の話はこうだ。 普通は考え難いことだが外傷もない仏さんの体からかなり多くの水が染み出していて、布団の下の床に人形のシミが出来ていたそうだ。 床板を剥がすと張替えのための費用が別途掛かってくるので、その許可が欲しいということであった。 次の入居予定が決まっていたので床を剥がすことを承諾して、きれいに張替えた後に別の生活保護受給者がその部屋に住むことになった。 数週間後、保護課に例の部屋の入居者から電話があり、「床の底から私を呼ぶ声がするんですけど、何とかしてくれませんか」という苦情であった。 苦情の他に「この部屋で前に何か無かったか?」とか「あっちの世界に引っ張られそうな気がする」ということをしきりに訴えていた。 担当者はその部屋であった奇妙な事件(死体から水が染み出していた事)のことを知っていたが、受給者はアルコール中毒を患っており幻聴とも考えられたので、 「おそらく気のせいですから大丈夫ですよ」となだめて特に事件のことは言わなかった。 それ以後、受給者からの苦情の電話は無くなり、やはり気のせいであったかと安堵していたのも束の間、例の部屋の受給者が布団の中で亡くなっていたという報告が別の担当者より伝えられた。 その受給者、亡骸から水こそ染み出していなかったが、不可解なことに死因は窒息であったそうだ。 部屋は現在は空きとなっている。

海難法師

伊豆諸島では1月24日(神津島等は25日)を海難法師が島々を廻る日として畏れられており、その日は早く床に就いて外出を慎んで静かに過ごす。 これは海難法師という亡霊に遭わないためで、もしも海難法師に遭ってその姿を見てしまったら凶事が降りかかると云われる。 海難法師は生前、民衆を苦しめる悪代官の御一行だったとも云われる。 代官が行う厳しい年貢の取り立てに困り果てた島人達は、この調子で島廻りをされては他島の人にも迷惑が掛かるということで計画的に海が荒れる日に出港を勧めて遭難死させた・・・ また、別の伝えでは、代官の無慈悲に憤った25人の若者が暴風雨の日に悪代官を乗せて船を出し、沖合で船の栓を抜き海に沈めたいう話もある。 義のためとは言え、役人殺しという大罪を犯した若者達を島に上げては皆が罪を被ることになるので島人達は上陸を拒否。 その結果、若者達を乗せた船は時化の海に飲み込まれてしまった。 若者25人の霊は日忌様と呼ばれ、伊豆大島には祠が祀られている・・・・・ このように海難法師とは恨みを持った海難者の霊であり、それに遭うもしくは見ると気が狂ってしまったり、死んでしまうそうだ。 伊豆諸島では、1月24日は元々が物忌み(穢れを避け、身を清浄に保つ行為)の日だったらしく、亡霊や悪鬼、もしくは神々の類が海の向こうから来訪する日であったと考えられる。 御蔵島では海難法師ではなく〝忌の日の明神”という異形の神様が来訪するという云われであることからも、1月24日がどんな日であったかがうかがえる。 いずれにしろ、1月24日は異界からの来訪者が島々を訪れる日ということで、幸ではなく禍(わざわい)の方を運んで来るようだ。 来訪者の厄災を避けるために、島々の戸口にはトベラという植物を挿す。トベラは枝を折ると悪臭を放つため、魔除けの効果があると信じられている(同様に臭いの強いノビル、棘のあるヒイラギを挿すことも)。 現代においても1月24日の禁忌はしっかり守られており、 ・玄関に魔除けの植物を挿す ・日が落ちてからは外に出歩かず、決して海を見ない ・静かにして早く寝る 恐るべき物忌む日となっている。 来訪者の姿は錫杖を持った坊主、海を走るたらいの船、もしくは25人の亡霊の集団とも云われる。 来訪者に縁のある旅館や旧家では、その日霊を迎え入れ鎮める謎めいた儀式を行うという話である。

ロフトの怪

とある会社員(男性)が某北関東の都市に転勤を命じられ、東京からつい先日越して来た。 東京ではワンルームの小狭いアパートに暮らしていたが、地方の家賃相場は格段に安い。都内で生活していた時とほぼ同等の家賃で憧れを抱いていたお洒落なデザイナーズマンションに入居することができた。セパレートの風呂にオートロック、収納も多くロフトも付いている。 新しい生活にも慣れた2カ月程したある日の会社帰り、年齢の近い同僚と宅飲みをすることなった。 面子は男3人、女性2の計5人である。 夜も更けた頃、酒と仕事の疲れで眠気が襲い、男達は床に雑魚寝、女性2人はロフトで寝ること・・・・ しばらくして「う~」という、うめき声が家主の耳に届いて来た。 悪夢にでもうなされているのか、女性陣が眠っているロフトの方から声が聞こえる。窓から最も遠く離れているためロフトは部屋の中でも取り分け暗く、そちらの様子がよく見えないが何やらもぞもぞと動いている。 ロフトに居る一人は完全に熟睡しているようだが、もう一人の女性が具合でも悪いかのように唸り続けている。 「大丈夫?」と部屋の主が女性に声を掛けてロフトに近づいて驚いた。 女性は陰部を丸出しにして、ロフトの梯子(はしご)側に尻を突き出して這いつくばっていた。そして、苦しそうな声を上げている。 女性の素ぶりからすると部屋の主である彼の存在にまったく気がついていないようで、下半身を露出した姿で敷布団を力いっぱい握り「う~」と唸り続けている。しかも、糞便を漏らしており、女性の周りには悪臭が立ち込めていた。 助けを得るためにもう一人の女性を起こそうとロフトの奥の方に目をやると、女性は壁側で眠ってはいたが強い寒気でも感じているかの様にガタガタと震えていた。 何かまずいことが起こっているのは確かなようで、とりあえずロフトに登ろうと梯子に足を掛けると、小さな何かに足を掴まれた。それはとても小さい手で、ぬるりとして冷たい。 「えっ?」 と足元をみると小さな人型をしたものが足にまとわり付いていた。そして「オギャーオギャー!!」とすごい悲鳴ような声がこだました。 意識があるのはそこまでで、気づいた時には朝を迎えていた。 「この子寝ゲロしちゃってたからお風呂借りちゃったね」壁際でガタガタ震えていた女性が、もう一人の女性を介抱していた。うめき声を上げていた方は精気でも吸い取られたかのようにぐったりして横になっている。 「○○は漏らしちゃったみたいだからコンビニで下着買って来る。このことはみんなには内緒ね」そう家主に耳打ちして元気な方の女性は外に飛び出して行った・・・・ 同僚達が帰り一人になると急に自分に部屋が怖くなった。 そして夜になると「オギャー!!」という声がロフトから聞こえて来きそうで、一人では部屋には居られなくなってしまった。 普段はロフトで寝ることはなく物置代わりにしていたが、確かにそこ上がると前々から陰気で寒々しい感じがしていた。しかし、自分の部屋でこんな恐ろしいことが起こるとは思いもよらなかった。 これは何かあると思い、近所の人に自分のマンションについて色々と聞き回った。すると恐ろしい事実が発覚した・・・・ 数年前、その部屋では自殺があり、自殺者はお腹に子供を抱えた若い女性であった。 女性はロフトから子供産み落とし、その後自らの命も絶ったそうだ。 飲み会の晩、彼女とその子供の霊もしくはロフトに残る思いが年齢の近い同僚女性にのり移ったのではないだろうか? とても住んで居られなくなり会社員はそそくさと引っ越していった。

招霊法

○○山県での話。 若い男女(男2、女2)で夜にドライブに出掛けたのだが、行先は触ると凶事が起こるという首なし地蔵がある心霊スポット。 怖い噂がある地蔵付近を散策したが怪異は何も起こらず・・・・・ 車に戻ると人気が無いのを良いことに、不謹慎にも性交を始めてしまった。 1組は後部座席に陣取り事を始め、もう片方は助手席で・・・ しばらくすると曇るフロントガラス越しに何やら覗く人影が視界に入った。 「覗きか!」とパンツを履き意気込んで車外に出ると、車のボンネット上には地蔵の頭部が置かれていた。 車内から見ると地蔵の頭部が人影のように見えたのだ。 かなり気味が悪かったが心霊スポットとして有名なので、探検に来た他のグループの悪戯と判断した。 「誰だよこんなことしたの・・・」 どけるために地蔵の頭部を持ち上げるとぬるりと滑った感触がある。見ると地蔵の首の辺りから赤い液体が滴っていた。 怒りが恐怖へと変わると、叫びながら頭部を草むらに投げ捨てて急いで車内に戻った。 すると半裸の状態の女二人が半狂乱になって男二入にしがみ付いて来た。 「ア★※○アゴ※○セー!!!」 “赤ちゃんをどこにやった!!” もしくは“赤ちゃんを返せ!!”という意味らしき古い言葉を叫び、女性達は強い力で男にしがみついて来る。 運転しない方が全力で女達を押さえつけると、もう一人が急いで車を走らせた。 その場を離れるてしばらくすると、突如として女達はおとなしくなり、意識を失うように眠り込んでしまった・・・ 心霊スポットは青姦スポット化している感はあるが、首なし地蔵の傍で行うのはヤバいという話にもなっており、地蔵が覗きに来るとか女が憑かれるとか云われていた。 詳しい歴史的な背景を伝える資料は無いが、聞くところによると地蔵が設置されたのは母と赤子の間に起きた陰惨な事件の慰霊が目的であるそうだ。 そして性交が土地に染みついている念やそこに宿る霊が持つ、悲しい想いと共鳴するらしく招霊に繋がるということらしい。 過去にあった事件を再現する舞台では彷徨える霊が集まるらしく、図らずとも事件の再現が招霊法となってしまっているようだ。

得度後に

ある宗派で得度を受けた後に、今まで無かった霊感が付いたという話。 得度とは悟り彼岸へと渡ること(涅槃に至ること)で、転じて仏門に入ることを意味するようになった。得度を受けることで俗人から僧になる。 あるお寺の息子が大学卒業後に坊さんになるための修行に入った。修行は合宿形式で行われ、歳の近い仲間が数人集まった。 坊さんの卵とはいえ若者同士、恋愛トーク等で毎晩話が盛り上がり楽しい合宿であったのだが・・・・ 合宿を行った寺には修行中に自殺した若い坊さんの遺灰が納められている。自殺したのもそのお寺で、合宿修行の最中だったらしい。 度胸試しの意味もあってか、じゃんけんやトランプゲーム等で負けた人は罰ゲームとして割り箸で遺灰をかき回すという悪質な遊びを若者達はノリで始めてしまった。 最初負けた一人がやると、あとは雪崩式に。結局みんな遺灰をかき回すという僧侶にあるまじき行為を行ってしまったのであった。 その次の日から、寝る前の談話中に遺灰の主と思われる霊の声が話声に交じるようになった。 話の流れで「そういうこと俺もあるよ」「俺も(笑)」 という相槌を打つと、誰も居ないはずの空間から 「オレモ・・・」という声が響いた。声色も皆のものとは明らかに異なり、か細いが響く声であった。 若者達は流石に怖くなり、その晩は皆布団を近づけて寄り添うように寝たそうだ。 それから数日後、得度の儀式も無事に終わり、晴れてお坊さんとなったのだが、それ以来お寺の息子さんは霊体が見えるようになってしまった。 通夜の帰り道で子供の霊を見てパニックに陥った若者に 阿闍梨である祖父「この世界に入ったら普通にこういうことはあるから覚悟しておけ」と言われ、覚悟を決めたという。 一般的な話では無いが、得度式を境に霊感が付いたり、見えるようになったという話はチラホラあるそうだ。 祖父も父も霊的力が付いたのは得度を境としてのことだった。 その若者も今や霊視のようなことが出来るようになり、人の守護霊的存在が見えるという。